旅夜話

とある好奇心の航跡

ブラジルにて ③ ~日本人の印象②完結編~

前回の続きです。
http://akitsuyoshino.hatenablog.com/entry/2017/05/14/070032

日本の家は小さい。日本の国土は小さい。

こんな風に飲み屋のおっさん達から言われたわけですが、家の大きさについては前回反撃をしました。

次は国土ですが…。
この時は反撃できませんでした。
何と言ってもブラジルの国土は日本の23倍。
世界5位を誇っているのです。
ブラジル人が日本を小さいと思うのは当然なのでしょう。
だから、単なる事実として受け止めても良かったんですが…。
ただ、引っかかる感じがあったんです。
というのは、彼らのイメージする日本の大きさが、実際の大きさよりはるかに小さいように思えたからなんです。
あんな小さいところにどうやって住めるんだ?
ぐらいの感じで言ってくるわけですよ。
そこに人口が多いイメージが加わることで、彼らが思い浮かべる日本というのは、国土全体にビッシリとミニチュアみたいな家が密集し、余ったスペースなんてほとんど無い、という事態になってるようだったんです。
そこまで極端に国土が狭いわけではないことはなんとか説明できたと思うんですが、じゃあどのくらいの広さなのか、というのは上手く伝えられなかった。
国土の大きさを示す具体的な数字は覚えてなかったんです。
ただ、僕個人としては日本の国土を狭いと体感したことはありませんからね、その感じを伝えたかったんですけど…。
やはり言葉の壁は大きくてですね。
それで簡単に、

僕は日本を狭いと思わないよ〜

なんて言ったら、ウッソだ〜ってめっちゃ言われました。すげ〜小さいじゃんって。
クソ…!
僕の中で、もういいや!ってなりました。

次に日本人は働きすぎてて、全く遊ばない、の件です。
僕そんな詳しくないですけどね、日本人は働きすぎだって日本国内でも問題視されてるのは知ってましたから、そこは否定しませんよ。
でもね、全く遊ばないって何なんだよ!って思いましたよね。
飲み屋のおっさんはこう言ってくるわけです。

日本人は朝から晩まで働きまくって、帰って寝るだけだろ?一日16時間働くんだろ?

って。
いくらなんでもみんながみんな、帰って寝るだけの生活してないし、日に16時間も働くわけないじゃない。
そりゃそういう生活してる人もいるでしょう。
僕もそれに近い生活してる時ありました。
でもそんなの、会社とか仕事によるじゃないですか。

それ言いました。
会社とか仕事によるよって。
そしたらおっさんは、

ウッソだ〜!ニュースでやってたぞ!みんなそんな生活してるって言ってたぞ!

って言うんですわ。
もうね、どこのニュースだよ。連れてこい、そいつ! って言いたくなりましたよね。
まあ、言葉の問題で、実際に言ったのは以下の言葉です。

みんなじゃね〜よ。みんな16時間も毎日働いてたらみんな死んじまうじゃね〜か!

おっさんは、そりゃそうだな…みたいな顔を一瞬しましたが、まだ納得はしてないようで、
でもなぁ…ニュースで言ってたもんなぁ、と食い下がるんですわ。
しつこいなぁと思いつつ、ビールを飲んでいると、

日本人ってアルコール飲まないんだろ?

と聞いてきたんですよ。
は!?お前の目の前で飲んでるのは誰なんだよ!
って言おうかと思いましたが、そこはグッと堪え、
 
飲むよ。

とだけ、言いました。
へ〜〜って顔してましたね。
どんだけクソ真面目な国民だと思われてるのか…。これはちょっと想像を超えてるなって思いました。
僕の周りの日本人なんて飲む人ばっかりだし、何なら毎日飲んでますからね。
そんな人世の中ザラにいるわけじゃないですか。
どうやらここのブラジル人達は、そんな呑兵衛の日本人がいるとは思いもしなかったようなんです。
女の子だって飲むよ。と言うと、ウソだろ!?
って感じで、もう彼らの日本人像というのは根底から覆されたかのようなリアクションなんですよ。
しかし、そうはさせじと彼らは抵抗するわけですが…。
なんで抵抗するんだよ!って思いますよね。
日本人がそう言ってるんだから素直に信じてくれよって。
ともかく、ここのおっさん達には、土日には家族で色んな観光地に出かけたり、友達同士で飲みに行ったり、遊び行ったりする、そういう日本人のイメージが無いみたいでした。
多分おっさんの主たる情報源はテレビでしょうから、テレビがそういう偏った情報を流してるのかもしれないですね。 
しかし、そうだとしても見る側の理解の仕方にも疑問があります。
流石に、日本人の一日の平均労働時間が16時間だ、なんていう明らかな誤報をニュースが流すわけありません。
このおっさんの場合、自分が既に持っていた日本人のイメージに寄った形でニュースの情報を誤って理解してしまったんだと僕は予想します。
と言うのも、実はこの後、この田舎街から何千キロも離れた場所で、そのようなことが起こる現場を見てしまったのです。

それは年始のニュース番組でした。
世界の色んな国の年末年始のイベント事を紹介していたのですが、その中で日本の餅つきの様子も紹介されてたんです。
そしてご丁寧にも、毎年餅を詰まらせて亡くなる老人がある、という情報まで言い添えてありました。
それを見た、あるブラジル人のおっさんは、口をあんぐり開けて興味深そうにしていました。
そして後日。
僕の目の前で、そのおっさんは別のブラジル人に、日本人は米を炊いて、ブラジル人のように食べたりはしない!(ブラジル人は米が主食で、炊いて食べます)炊いた後、ベッタンベッタン木で打っ叩いて、ネバネバにしてから食べるんだ!そしてそれを詰まらせて死ぬんだ!と言っていたのです。

おい、ちょっと待てと。

ここに自分がいて良かったと思いましたよ。
日本人は基本的に米を炊いてそのまま食うし、餅はいつも食うもんじゃない。食って死ぬ人も確かにいるけど、そんなに危ないもんじゃないよ、と説明させて頂きました。

つまりですね、このブラジル人のおっさんは、正月の餅つきを日本人の日常的行為だと拡大解釈した。
そしてそこには、日本人は変わった習慣、理解に苦しむ習慣を持つ人達であって欲しいという、願望の力添えがあったように思えました。
たった1分の映像と、彼の元々持っている日本観が反応して、新たにヘンテコな日本観が作られた…。
この時はテレビでしたが、これがテレビではなく、ユーチューブだったとしても同じことが起こることは容易に想像がつきますね。
いや、ユーチューブでの方が、よりそのようなことが起こりやすいかもしれません。
何しろ、放送されるものをただ受け身で見るのではなく、自分の好みと傾向に合う動画を積極的に選んで見ることができるわけですから。
ますます自分の固定概念を強化してしまう可能性が十分にあります。
前回も紹介しましたが、サソリの串焼きを食べる中国人の動画を見て、中国人、日本人、韓国人はみなサソリを食うと思ってしまう、というのはその典型例ではないしょうか。
ちなみにこのサソリの件は、今回ブラジルに滞在した中で、何度も言われました。
で、その度に僕は、この映像は日本でも韓国でもなく、中国のものであると。しかも、中国人がみんなサソリを食べるわけではなく、一部の人が時々食べたりする程度なんじゃないか、と説明するのですが、なかなか信じてくれません。
まず、中国や韓国や日本が違う文化を持ってるということを覚えるのが面倒臭そうです。
見た目同じだから全部同じだと思ってるし(実際よく言われます)、その先入観を変えることに、まるで嫌な勉強をするような抵抗があるようです。
中国や韓国や日本はヤバい!って思ってたほうが分かりやすい上に面白い。
それが現実は違うということになると、分かりにくい上に、小バカにできるネタが一つなくなるので面白くない、そんな風に見えました。

今回のブラジル滞在中に、僕が幾度も聞かされた日本の印象は、このサソリの件だけではありません。
ここでもう一度、前回のブログに書いた、僕が飲み屋で聞かされた日本の印象をおさらいしてみましょう。

まず褒められてる点。

1:日本社会は非常に秩序がある。
2:科学技術が発展している。
3:日本人は礼儀正しい。
4:日本人は頭が良い。
5:経済的に豊か。(店の親父は世界一位の経済力だと思っていた)

次に決して褒めてはいない点。

1:目が細い
2:ち○こ小さい
3:女は胸が小さい
4:働き過ぎで全く遊ばない
5:国の面積が小さい
6:家が小さい
7:自然災害が多い
8:犬を食う
9:サソリを食う
10:ジャッキーチェンすごい

ここに書かれていることは、褒められてる点も、決して褒めてない点も全て、あの場末の飲み屋だけに留まらず、行く先々で繰り返し何度も聞かされました。
まるで日本人に会った時にはそう言うように教育でもされてるかのように。
そして上に書いたこと以外によく言われたのには、日本人は信用できる、というのがあります。
これは本当によく言われました。
一番よく言われたかもしれません。
それに、目が細いっていうのと(これは左右の手で目を横に引っ張り、極限まで目を細く見せる仕草とともに言われるのが通常のパターンです)、犬を食う、というのを合わせて、よく言われることTOP3と言えそうです。
この一番言われたかもしれない、日本人は信用できる、という日本人観は、言うまでもなく一朝一夕で作られたものではありません。
日系移民の方々、特に一世や二世の方々がブラジル人社会に強烈に印象付け、守り続けてきたものでしょう。
日系移民がこの国に存在せず、日本人がブラジル人にとって、単に遠く離れた国の人達に過ぎなかったのなら、信用できる、という印象は決してブラジル人の中に浸透していなかったと思います。
信用とは人と人との密な関係の中で、ある程度の時間をかけて醸成されていくことでしか作られないものでしょうから。
他の日本人観に関しては、どこかで聞き齧ったり、映画やテレビやネットで見たりした程度でも、広まっていけるものばかりではないかと思います。


と、こうして見てくると、ブラジル人が持つ、なかなか複雑な日本観というのが浮かび上がってくるんではないでしょうか。
一口に尊敬されてるとも、バカにされてるとも言えません。
両方あるんですね。

ブラジル人は日本の文化に対して、ほとんど仰ぎ見るように、尊敬してる部分があります。
それは、日本人は信用できる、秩序がある、礼儀正しい、という評価に現れています。
こうして日本を褒める時のブラジル人には、一方でブラジルときたら、もうめちゃくちゃだよ…という自嘲的な態度が見られることもしばしばでした。
そこにあるのは、ブラジルは到底日本のようにはなれない、という諦めにも似た感覚のようでした。
しかしそうして日本を褒めた人が、次の瞬間には日本をバカにするような感情を覗かせたりする。
それは多くの場合、日本と中国、韓国の区別についての会話の中で明らかになります。
彼らは大概、これらの国の区別に無頓着で、3カ国全てで同じ言葉を使い、一人っ子政策があり、言論の自由は無く、犬を食うと思っていたりする。
そんなことはない、文化も政治形態もそれぞれ違うんだよ、と僕が言うと、そんなことはない、同じだろ? っと返事が返ってくる。
とは言え、そう言う彼も分かっているはずなんです。
試しに、寿司はどこの国の食べ物だい?と聞いてみます。すると迷わず、
日本だ!
という返事が返ってきます。
寿司は中国や韓国の食文化であるというイメージにはなっていない。
日本のオリジナルの食文化であるという認識がしっかりあります。
そして、信用できる、秩序がある、礼儀正しい、という日本人に対する印象を、中国人や韓国人にも持ってるのか?と聞くと、そういう印象は持っていない、という返事が返ってくる。
となれば、彼の中で日本人と中国人と韓国人は食文化も国民性も違うものとして認識されているということになります。
少なくとも、日本の特性と思われているものが、中国や韓国のものとしても認識されているわけではない。
しかし、逆はあるのです。
つまり、中国や韓国の文化を日本も共有してることになってる。
一人っ子政策は中国の政策だよ、とか、日本人は犬を食べないよ、と伝えた時に、若干残念そうな顔をして、中国も韓国も日本も一緒だろ?っと言い返す彼らの表情からはアジア人の区別なんてどうでもいいんだという、侮蔑の感情も読み取れるのです。
ここに、僕は不思議な矛盾を感じてしまいます。
日本人を尊敬すると言っていながら、日本人と中国人と韓国人の区別なんかどうでもいいとも言う。
日本人を含めた東アジア人全てを見下したような態度をとる。
この矛盾して見える心理は、僕が接したブラジル人の多くに共通してあるもののようでした。
僕は今回のブラジル滞在の中で、このことをどう解釈したらいいのか分からず、戸惑いを抱き続けていたように思います。
しかし旅も終盤に差し掛かった今は、何となく、僕なりにですが、彼らの心持ちが分かるような気がしてきました。

まず、彼らは基本的には東アジア人の、恐らくはモンゴロイドの身体的特徴を見下している部分があるのだと思います。
そして、遠い場所にあり、長い歴史を持ち、独特な文化を育んだ東アジア全般にミステリアスなイメージがあります。
そこには何かしら惹かれるものがある一方で、心理的距離も感じています。
あくまで、東アジアは異質な文化圏であり、親近感は抱きづらいのです。
東アジアに幾つかの国があることは知っていても、その違いまでは知らない。
非常に漠然とした、オリエンタルなイメージで一括に捉えているわけです。
しかし、そんな東アジアの国の中で、唯一日本には具体的なイメージを持ちやすかった。
東アジアで唯一、日本からは大量の移民が渡ってきたからです。
日系移民に接したブラジル人は、日本人の特徴を具体的なイメージを伴って理解し、それが伝聞としてブラジル社会に浸透していきました。
そしてその特徴の中には、ブラジル人が尊敬したがるものも多く含まれていたのです。
しかし、日系移民も今や3世4世の世代が多くなり、彼らは生まれも育ちもブラジルで、つまりブラジル人です。
日本文化の特徴は当然失ってきている。
そしてその人口もブラジルの総人口の1パーセントを占めるに過ぎない。
となると、東アジアのなかで唯一具体的なイメージがある日本人にしても、現在身近に感じられる存在ではありません。
一度、東アジアのヴェールの向こうから顔を出し、強烈な印象を残した日本人は、再びヴェールの向こうの東アジアに去ってしまったのです。
そう、あのミステリアスで、惹かれる部分がありながら、異質であり、親近感が湧かず、肉体的にはちょっとバカにしたくなってしまう人々の文化圏、東アジアです。
ブラジル人はそんな、心理的距離のある東アジアの情報を雑に扱ってしまう傾向があるように見えます。(いや、実は他の地域に対してもそういうところがあるのですが、ここでは言及しません。)
そこには日本人も当然含まれているのです。
こういったところに、僕が出会ったブラジル人の多くが、日本に対して尊敬と侮蔑という、両極端な感情を同居させていた理由があるのではないかと思います。
更に、この20年くらいは中国人と韓国人の移住者が増えてきたようです。
その中で、特に中国人のイメージがあまり良くないようなんですね。
ブラジル人の中でも、東アジアの情報を雑に扱ってしまう傾向を強く持つ人々の間では、既にその中国人の良くないイメージが日本人のイメージの中にも流入してきているようです。

さて、ここまでブラジルにおける日本人の印象を書いてきましたが、出来れば、日本人や東アジア人が侮蔑されてるようなことなどは書きたくはありませんでした。
しかし今回の滞在では、かなり露骨に侮蔑されることが頻繁にあり、これは困ったな事態だな…と思ったんです。
もし、僕が日本人ではなく中国人だったなら、この侮蔑は更にひどいものになったんではないかと予想します。
僕が体験したリアルなブラジルを伝えるという意味においては、その侮蔑された部分も避けては通れないなと思い、隠さずに書きました。
ただ、今回の記事だけでは、いや~な印象をブラジルに持ってしまう方もいるかもしれませんので、そこは今後、ブラジルってそういう部分だけじゃないんだよ、ということでバランスとっていきたいと思います。
もちろん侮蔑の言葉なんて一言も吐かない、ただただ親切なブラジル人もいますからね。

そして、前回も書いた通り、これはあくまで、僕が体験し、感じ、考えたことに過ぎません。
他の旅行者や滞在者の中には、全く違う体験をされた方もいるかもしれません。
まだ日系人が多く住む地域には行ってませんから、そういう地域ではまた事情はかなり違うのでしょう。
そして文中、ブラジル人、と一口に言ってますけど、ブラジル人を一括にするのは、非常に難しいことではあります。
ただ、幾つかの地域を訪れた結果、ブラジル人の日本人に対する印象がほとんど同じに思えたこと、更にブラジルに数年住んでいる僕の友人も、僕と同じような感想を持っていたことから、そんなに偏った見方にはなっていないんじゃないかと思っています。
そういったことを踏まえた上で、以上の記事を理解して下さればと思います。
ではでは。